エレベーター・ボーイ

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 だけどさすがの私でも、その幽霊少年に二度も会うようなこととなれば、ガッツポーズどころじゃない。  一度目の天井からの声は、声が聞こえるだけで姿は見えもしなかったから、空耳だろうとかそんな結論で結局のところ済ませたけれど、さすが二度目ともなると、しかもその幽霊が私の目の前に姿を現したともなると空耳なんていうごまかしはきかなかった。  一階でエレベーターに乗り込んだ私の後に、続いて入って来た人の気配があったものだから、私は当然のようにボタンの前に立って背中でこう尋ねてみただけだった。 「何階まで行かれますか?」  返ってきたのはこうだ。 「何階まででもいいよ」  そんな返事を、しかも子どもの声で聞いたとなれば、それはもう「はあ?」と内心しかめ面で振り返らずにはいられなかった。  そこにいたのは、自分よりも頭ひとつ分は背の低い小学五、六年生くらいの男の子。おまけに身体はうっすらと透けて見える。  その少年が、生意気にもこう続けるのだ。 「あなたが行くところまでお願いします」  唖然とした私をよそに、時間が経ち過ぎたのか、エレベーターの扉が勝手に閉まる。狭い箱の中には、私とその幽霊くんの二人きり。  先日とは違って、わりと正気な私には、振り返った首をそのまますーっと前に戻して、背中に冷や汗をかきながらただただ目の前のボタンを見つめていた。  私の行き先は六階。少年はそこまでついてくるという。  どうしよう幽霊なんて、そんなこと、私、霊感なんてないはずだったのに。はやく、どうしよう、呪われたら、はやく、はやく着いて!  ようやく六階の赤いランプが消えて、扉がガシャンとぎこちなく開く。慌てて私は飛び出して、それからナースステーションに正真正銘生きている人の姿を確認してから、おそるおそるエレベーターを振り返ってみた。  だけど、動くその箱はちょうどその瞬間にはガシャンと閉まって、また下へ呼ばれてしまったようだから、結局のところわからずじまい。
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