エレベーター・ボーイ

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 どうやら幽霊少年こと、エレベーター・ボーイは、テレビのホラー特集に出てくるような怨霊の類ではなく、人畜無害であるようだった。  私の他に乗客がいるような時は決して話しかけてこないし、私も他に人がいないような時にはできるだけ階段を使うようにしていたから、それほど彼を見かけることもないし、エレベーターの外、病棟なんかでは一度も見かけたことがない。  日も暮れて、ほとほと疲れきって階段を上がり下りする気力もない時には、仕方なく一人きりでエレベーターに乗ってみたりもしたけれど、どうやら幽霊少年は午後八時以降には現れないということもわかった。  その事に気づいた私がちょうど夜の八時に乗り込んだ時、ぼそっと「幽霊でも面会時間は守るんだ」と笑ったら、背後でぽわっと煙のように現れた少年が、「幽霊でも面会時間は守るんです」と私の言葉を繰り返した。  あいにくと、今は他に誰もいない。  一瞬ぎょっとした私だったけど、なんだかもうすっかり見慣れてしまったこの幽霊に、いちいち怖がってみせるのも馬鹿馬鹿しく思えてきてしまった。 「今日はもう面会時間を過ぎましたよ」  私は言った。 「うん、だからもう帰らなきゃ」と幽霊。 「毎日どなたかにご面会ですか?」  ちょっとふざけて訊いてみれば、少年は「ええ、まあ」と妙に大人ぶった言い方で答えた。 「エレベーターから離れられないのに?」と私。  少年は、少し驚いたような顔をして、それからにこっと笑った。 「離れようと思えば、離れられるよ」 「へえ、ということは、地縛霊ってわけじゃないんだ」
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