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その日以来、私はこの面会時間を守るという律義な幽霊少年を怖がることはなくなった。
なにせ彼は、私に生意気な口をきく以外に、何をすることもできないらしいのだ。
「誰かを呪ってやるとか、そんなことはしないわけ?」
我ながらよくぞここまで際どいことを質問できたと思う。そんなことを言って、自分が呪われたらどうするつもり。
言った瞬間は焦ったけど、私の中ではこの子はそんなことをする幽霊とは違うと確信していた。
一階から他の乗客と乗り込んだ後の、すぐ二階の外来診療で私以外の人たちはみな降りていってしまう。
少年と私のふたりきり(正確にはひとりきりって言うべきかも)になった直後に、私は後ろを振り向いてその質問をしてみた。
幽霊少年は、わざとらしく両腕をさすって、
「おおこわい。そんな物騒なこと」
と、なんてことを言うんだといった目で見てきた。
「ホラー番組の見すぎじゃないの? ほら言うじゃん、『人を呪わば穴二つ』ってさ。そんなリスク負って呪いなんて普通しないでしょ」
なによこの言い方。こんなふうに言われて私がむっとしないはずがない。
「あのねえ、ちゃんと意味わかって言ってるの? 君はもう穴に入っちゃった子どもでしょ」
「ああ、そうだっけ」
この、わざとらしくとぼけた調子。
「でもほら、穴に入っちゃったら、ここにはいないんじゃないのかなあ?」
私は頭上の現在階を示すランプが「四」の数字に辿り着いたのをため息をつきながら眺めていた。
訊いてみようか、どうしようか。「五」のランプが消えてしまった勢いで私は息を吸う。
「ねえ、君はどうしてこんなところに――」
あれ、いない。
なんなの、もう。幽霊って本当にきまぐれ。それとも彼がきまぐれなのか。
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