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―――
「・・・で、悠斗はどう思う?」
午前中の講義を終え、俺は美波を含むサークルの同期たちと一緒に学内の中庭で昼食を取っていた。
故郷を離れての単身生活。
高校生の頃に母親を亡くした彼女は、現在は父親からの少ない仕送りを受け生活していた。
彼女はいつも自作の弁当を持ち込み、今日は程よい焼き色の付いた卵焼きを食べている。
そしてその横で、俺や春香はコンビニ弁当や学食を食らっていた。
「どう・・・って言われてもなぁ・・・。
もう、今年のクリスマスで間違いはなんだろ?」
彼女が箸を付けた卵焼きに注目しながら、振られた問いに答える。
「俺たちまだ、成人式も迎えてないじゃん?
だから、そんな事が事実なんて信じたくはないよなぁ・・・。」
まだ、死にたくない。
そう思うのは、まだ20年しか生きていないこの世への未練だけじゃなかった。
全く進展のない、俺と美波の関係。
春香と共にサークルに入ってきた美波と俺は、他のサークルメンバーも絡めながらすぐに親しくなった。
しかしこの1年で、サークルの活動は勢いを鎮め、少しずつイベントに参加する人数も減っていく。
そのせいもあって、俺はなかなか彼女との距離を縮めるチャンスを見付けられずにいたのだ。
そして今も、まだ『友達』のまま・・・。
みんなが消極的になってしまったのは、きっとあの『一説』のせいだろう。
2年程前から頻繁に報道されるようになった、『20XX年・地球終末説』。
そして今年は、それが起こると言われている『20XX年』だった。
推測でしかなかったその説も、いろいろな研究を経て事実である事が明らかになってしまった。
そして、その最期を迎える日は・・・。
「どうしてまた、聖なる日にこんな事がねぇ・・・。
サンタクロースもびっくりだよ。」
無邪気な笑顔を見せる美波。
そして彼女は、少し声のトーンを落としてこう呟くように言った。
「彼氏もいないし、最後くらいはお父さんと過ごそうかな・・・。」
例年なら、恋人たちが盛り上がるはずのクリスマス。
その聖なる日に、この世は終わりを迎えるのだ。
12月25日までは、あと1ヶ月。
・・・どうしよう。
もう、時間がない・・・。
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