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『最期の日』まで、もう1週間を切っている。
来週からは、大学自体が休校となってしまう。
そしてその休校を前に、春香を始めとする遠方出身の学生たちは、遠く離れた故郷で待つ家族の元へ次々と帰っていった。
美波はまだ、大学の講義に出ている。
彼女が通う国文学科は、休校になるぎりぎりまで講義が開講されていたようだ。
タイムリミットが迫るに連れ、俺は1人になると、気付けば言葉を捜すようになっていた。
美波に伝えたい事。
だけど、本人を目の前にするとどうしても言えなくて・・・。
そう思いながら、街を歩いていた時だった。
百貨店のショーウィンドウに並んだ、クリスマスギフトの数々。
その中にある1つの箱に、思わず俺は注目した。
『愛する人へのメッセージを指輪に託しませんか?』
そう書かれたPOPに、思わず引き寄せられる。
店内に入って詳細を伺うと、どうやら指輪の内側にメッセージを刻印してくれるサービスがあるらしい。
しかし、ここは百貨店のジュエリーショップ。
どのリングも、値段はそう安価ではないようだ。
まだ大学生。
それに、ゆとりができる程のアルバイトもしていないし・・・。
情けない自分を隠すのに必死で、気付けば店内を何周もしていた。
そんな俺に気付いてくれたのは、ショップスタッフの中でもベテランと思われる女性だった。
「もし宜しければ、お若いお客様向けに安価なシルバー製のリングもご用意できますよ。」
その言葉を聞いて、思わず安堵の溜め息を吐く。
シルバー製でも充分だ。
ちゃんと気持ちとメッセージが籠ってさえいれば・・・。
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