往路だけの想い

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――― とうとう、別れの日がやってきた。 『最期の日』を2日後に控え、美波は今日、父親の待つ故郷へと帰ってしまう。 他のサークルメンバーも続々と地元へと帰ってしまい、少し早い冬休みはもう始まっていた。 美波との待ち合わせ場所へと向かう途中、俺はあの百貨店で指輪を受け取ってきた。 そしてすぐに、新幹線駅に隣接する彼女が待つカフェへと向かう。 「あ、悠斗。遅かったね。」 大きなキャリーバッグを脇に置き、カフェラテを飲みながら待っていた美波。 その無邪気な笑顔に、心が乱される。 本来なら、ちゃんと言葉で伝えなければならないはずなのに・・・。 どうしても彼女を目の前にすると、茶化すような言葉しか出てこないのだ。 「そろそろ時間だろ? ホームまで送ってくから・・・。」 荷物を引き摺る彼女に代わって、カフェラテのカップが乗ったトレイを下げに行く。 しかしその手は、緊張で震えていた。 美波が乗る新幹線は、山陽方面に向かう便。 ホームは多くの人でごった返し、乗り場の付近にはもう長蛇の列ができ上がっていた。 「・・・どこだっけ、実家?」 言葉を探し、わかっているはずの事をつい尋ねてしまう。 そんな俺の目を見つめながら、彼女はちゃんと問いに答えてくれた。 「岡山。今日の新幹線で、確か最後・・・。」 それもちゃんとわかっていた。 だけど何か会話を交わしていなければ、きっと俺は、無口になってしまったから・・・。 俺たちのいるホームに、列車到着のアナウンスが鳴り響く。 もうすぐ・・・、本当のお別れだ。 もし、2日後に『終末』が訪れなければ、冬休みから明けた来月、再び俺たちは大学で会える。 しかし、もし本当に最期が訪れてしまったら・・・。 これだけ追い詰められても、俺の口からは言葉が出てこない。 そしてホームには、美波が乗る新幹線が入ってきた。
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