往路だけの想い

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「じゃあ、行くね。 ・・・またね、悠斗。」 またね・・・か。 本当に俺たちは、また会う事ができるのか・・・? 列に並ぶ人たちに押され、美波は少しずつ新幹線の車体の方へと追われていく。 そして反射的に、俺は彼女の腕を掴んでいた。 どさくさに紛れながら、彼女の手に小さな箱を握らせる。 その中には、俺のありったけの想いが入っているんだ・・・。 唐突な俺の行動に、驚き振り返った美波。 そんな彼女に、最後になるかもしれない言葉を告げる。 「美波、次会った時でいいから。 ・・・答え、待ってるから・・・。」 「な、何言ってんの?」 人の波に押されながら、そう俺に問い掛ける美波。 しかし彼女の体は、人の波に押されて新幹線の目の前に差し掛かっていた。 「じゃあな、美波。」 彼女の腕から手を離し、笑顔を作り手を振った。 人混みに紛れた彼女には、もう俺の手は届かない。 そして、無邪気に笑うあの顔も、もう見る事ができないのかもしれない・・・。 そう思うと、胸の奥から熱い何かが込み上げてきた。 それはきっと・・・、言葉で伝えられなかった俺の精一杯の想い。 新幹線のドアが閉まるまでは、笑顔を絶やしてはいけないと思った。 しかしドアが閉まった瞬間、俺の目からは大粒の涙が溢れだして・・・。 「っくしょぉ・・・!!」 最後の最後まで、意気地のない自分い腹が立って仕方なかった。 思いの全てを物に託そうだなんて、やっぱり間違っていたのかもしれない・・・。 美波は、ちゃんと気付いてくれるだろうか。 指輪の内側に刻印した、俺の精一杯の想いを・・・。 「愛してる・・・。」 今そう呟いたところで、もう彼女は行ってしまった後だ。 不甲斐ない自分に腹を立てながら、新幹線のホームを出る。
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