8人が本棚に入れています
本棚に追加
店員は美樹の意図を理解するものの、ちらりと少年を見て押し黙る。
少年と美樹は思い込んでしまったが、よく見ると二十代前半くらいだろうか。特徴のある真っ白な制服からは、甘い匂いがした。
「あ、すみません」
少年、もとい青年は美樹を見るなり、頭をがばっと下げた。その角度90度。
「俺、そこにあるケーキ屋なんですけど」
それだけで全てを察するには十分だった。今日はクリスマス、しかも特別な。忘れて、いたけれど。
「それで大量に作っていて、そしたら卵が足りなくなっちゃって」
青年のあまりの慌てぶりに、美樹は柔らかく微笑む。
こんな日でも職務を全うし、みんなの為にケーキを焼く。その行為は神聖で尊く、冒しがたい。
最初のコメントを投稿しよう!