ツインテールとシュシュ(2)

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 杉本くんと一緒にいると単純に楽しい。いまはそれだけで充分な気がした。なにもあの人の代わりをこの人に求めるわけではない。ただエリナが言ったように、東京まで通う目的が友達とかいろいろあっていいように思えたのだ。好きな人が、恋愛がすべてってわけじゃない。だからわたしは決めた。今度は自分の意志で、この痛みを忘れようと。  けれどその決意は早くも揺らいでしまう。上野から乗り込んだ山手線の中で、よりによって彼女を見つけてしまったからだ。時刻は7時40分頃。ラッシュはまもなくピークを迎えようという時間帯だが、先頭に近い車両は視界が塞がれるほどには混雑していない。だから、同じ制服を着たスラリと細長いその立ち姿に気づいた。正面から顔を見なくてもわかる。柿崎さんだ。彼女はわたしには気づかず、つり革を持たない右手で広げた本に目を落としている。その姿は知的で洗練されていて、スカートは膝丈だが野暮ったさはなく、やはり良家のお嬢様を思わせた。アルファベットで格付けするなら、文句なしのトリプルA。わたしなんかではとうてい太刀打ちできない相手……。  ただ、ゆうべ泣きはらしたことである程度立ち直っていたわたしは、あの2人の関係に冷静に疑問を抱いてもいた。河田くんと柿崎さんは、そもそもなぜ付き合うことになったのだろう、と。どう見たってアンバランスだ。いくらわたしにとって河田くんが魅力的であっても、その他大勢の女子があまねく彼に魅了されるわけではない。実際、わたしが彼と仲よくすることで女子の嫉妬や顰蹙(ひんしゅく)を買った経験はただの一度もなかった。不本意ながらも彼を格付けするなら、どうひいき目に見てもシングルAに届くか届かないかといった水準である。つまり、彼には柿崎さんよりわたしのほうがよほど身の丈に合っている。なのに……  これってもしやハニートラップ? わたしと彼に仕向けられたなにかの陰謀? とにかく納得いかないっ!
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