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きょうはさぼんなよオメ! 言い残し、その人は走り去ってゆく。まるで一瞬にして大きな爪痕を残した竜巻のように。
「いまのが……『姐さん』?」呆気に取られながらわたしは聞いた。
「……うん」
「ワイルドな人だね、想像どおり」
「あのさ」顔色を窺うように彼が問うてくる。「これでいんだよな?」
「いいって、なんのこと?」微笑みさえ交え、わたしは問い返す。「傘ありがと」
畳んだ傘を彼に押しつけると、一目散にわたしは駆けだした。そして降りしきる雨粒を体じゅうに浴びながら、心の中で叫んだ。最低っ!
結局そのまま走って学校に着いた。昇降口で息を整えながら、これじゃ普段と変わんないじゃんとふと悲しい気分になる。彼が追いかけてくる気配はなく、代わりにメールが届いた。内容はひと言、『ごめん!』。これが彼からの記念すべき初メールだった。わたしは廊下を歩きながらやるせない思いで返信する。『いいよもう気にしないで』。
教室に入ると、クラスメイトの視線が一斉にわたしを向いた。それもそのはず、来ているのはまだ半数程度。こんな早い時間にわたしが登校してくるなんて前例のないことだ。須藤さんきょう早くね? という話し声が耳に痛い。ただ1人、訳を知るエリナが無関心そうにケータイをいじっている。おはよーとわたしは声をかけた。
「思うんだけどさ」と彼女は下を向いたまま口を開く。「別々に来る必要あるわけ?」
その問いに答えず、「早いんだね」とわたしは言った。
「ジサツー」エリナは答え、ケータイを閉じた。一瞬、自殺という文字をわたしは思い浮かべたが、「痴漢対策」という言葉でそれが時差通学のことだと思い至る。顔を上げた彼女がじろじろとわたしを見た。「なんでそんな濡れてんのあんた。つーか熱ある?」
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