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チーク入れたんだけど。わたしは瑞希さんにメイクしてもらったことを手はじめに、ゆうべ杉本くんと食事のしたくをしたことや3人で交わした他愛のない会話など、かいつまんで話した。どうせあれこれ聞かれるのは避けられないと思ったし、また自ら話したい気分でもあったので。そのうち杉本くんが教室に入ってきた。わたしとエリナは彼を見た。彼もわたしたちを見た。が、すぐに目を逸らし自分の席に着く。エリナはさっそく席を立ち、興味津々に彼のもとへ向かう。のかと思いきや、おとなしくわたしに視線を戻した。
どうもエリナの反応が弱い。わたしはそう感じていた。彼女はわたしの話に一応興味ありげに相づちは打つものの、突っ込んだ質問を一切してこない。2人でジョギングしたくだりを話せば少しは喰いついてくるだろうか。デートにしては健全すぎるが、近所の人にカップルと思われたことや、彼がエリナにいい彼氏ができるよう祈願したあたりはいいネタになるかもしれない。が、結局これらも期待したほどの成果は得られず終わった。ふうんそうなんだと彼女の態度はやはりつれない。それでも嬉々と話すわたしに変化を感じ取ったのか、「少しは元気になったみたいだね」と言った。
8時半。一日の始業を告げる本鈴が鳴る。それから5分あまり過ぎて先生がやってきた。挨拶を交わし、何点かの連絡事項を伝えられたのち、文化祭実行委員を兼ねるクラス委員の男子が起立する。役割分担とか決めたいので放課後残れる人は残ってください。みなさん部活とか塾とか忙しいとは思いますけど協力してください。すると、まいったなあたしデートの約束してんだけど、とわたしの至近で声が上がる。いやぁそこをなんとか頼みますよ奥沢さん。委員長がおどけた調子で返すと、それに呼応するように「吹かしてんじゃねーぞ」とヤジが飛んだ。
さて、HRが終わるとわたしは先生に呼ばれた。いきなりだったが用件の察しはついた。呆れ返った様子の先生に渡されたのは、定期の入ったパスケースだった。どうやらけさがた事務室に届けられていたらしい。
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