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ああよかった……。ほっとした思いでわたしが受け取ったそれを見つめると、先生は思いも寄らぬことを口にした。「なんだ再発行しなかったのか」
「え? 再発行?」
なんだ知らなかったのか、と先生は呆れる。「きのうはどうしたんだ。わざわざ切符買って帰ったのか?」
ドキッとした。まさか友達、それも男子の家に泊めてもらったとは言えず、冷や汗混じりに「はい」と答えた。
ところが先生の反応は意外なものだった。「誰かの家に泊めてもらえばいいだろ。まだいないのかそういう友達」
唖然とした。いやそれはまずいんじゃないでしょーか。逆の立場からそう返すのがわたしには精一杯だった。しかしながら、お前の場合しかたないだろと先生は眉間に皺を寄せて言う。「せいぜいつくっとけよ友達。でなきゃ卒業まで持たないぞ」
なんだか妙にすがすがしい気分が訪れた。きのうエリナに言われた友達うんぬんのくだりは、思いもかけず先生のお墨付きを得たことになる。ふいに背中を押された気がした。
たいへんだねと同情されるのは嫌だった。過剰な気遣いも受けたくない。けれどそれ以上に、そんなつまらない理由で隠しごとをしている自分が嫌だった。わたしは教壇からクラス全体を見渡した。何人かの人が、なに話してんだろうといった感じでわたしと先生を見ている。いましかないと思い、わたしは声を上げた。「あの……ちょっと聞いてほしいんですけど」
セミの鳴く真夏のようにやかましかった室内が、一瞬で雪の降る真冬のような静けさに包まれた。いったいなにごとかといった様子で一同の視線がわたしに注がれた。
「文化祭の準備なんだけど……わたし、あまり協力できないかもしれないです」
なにデートの約束? 名前の知らない男子が軽口を叩く。
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