ツインテールとシュシュ(2)

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 きのうの残りの低脂肪乳を2人で飲み干すと、彼が言った。「おれちょっと走ってくるけど、一緒に行く? 元陸上部サン」 「ジョギング? いいよ付き合ったげる」  なんだか挑発されている気分になったので、わたしはそう答えた。  洗面所で顔を洗うと、昨夜いったんは切りかけた髪をいつもどおりの形に束ねる。中学時代と違って学校指定のジャージ姿で外に出るのはやや抵抗があるけれど、早朝なのでまあいい。  しかしマンションの表に出ると早くもこの話に乗ったことを後悔した。風が思いのほか冷たかったからだ。おまけにときおり微小な雨粒が顔に当たる。梅雨入りが近いことを思わせる曇天だった。  けれどそんなことなどさほど気にした様子もなく、杉本くんはわたしに問う。 「浅草と上野、どっちにする?」  いまさら嫌とも言えず、「浅草」と答えた。  じゃあスカイツリーでも見てくっか。のんきに言いながら彼が走りだし、わたしは続いた。彼のペースについてゆけるか不安はあったものの、さほど飛ばす感じではない。歩道の幅の許す限りわたしは彼の横に並んだ。浅草通りと表示された大きな道に出ると、上野駅とは反対方向へ舵を切った。都心近くといえど早朝の町は静かだが、まばらに現れるクルマや人影に一日のはじまる息づかいを感じ取れる。赤信号で立ち止まり息を整えていると、おうっ、と民家の軒先に現れた高齢の男性が声をかけてきた。細身だが、肌寒く感じる気温にもかかわらず上はランニングシャツ1枚という格好だ。杉本くんとは顔見知りなのだろう、うぃすと彼が応じる。なんだいきょうはカノジョ連れ? 隅に置けないね、とそのおじいさんは軽口を叩く。しかし彼は、妹っすと言ってまた走りだした。 「テキトーなこと言って」その横に添いながら、わたしは軽く彼をなじる。 「トモダチって言っても信じてくんないっしょ、あのての人は」 「カノジョってことにしときゃいいじゃん。そんくらいじゃ怒んないよわたし」 「なにげ嬉しかったでしょ。おれが隅に置けないって言われたこと」  否めなかった。だって女の子ですもの。
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