ツインテールとシュシュ(2)

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 距離にして1・5キロ程度だろうか、10分ほどで駒形橋に行き着いた。車道部を覆うブルーの鋼製アーチが無骨に存在感を放っていて、歩道にはバルコニー状の張り出し部が設けられている。ひと休みするには少し早いような気はしたが、わたしたちはここで立ち止まった。スカイツリーの全体を視界に収めるにはほどよい距離だ。 「おっきいね」とわたしはひねりのない感想を口にした。 「まあ須藤さんと比べればね」そしてそのことをバカにするように杉本くんが言う。  彼はしばしば、こういう意地悪なものの言い方をする。このまま行くと、わたしもいずれはエリナみたいにぞんざいな扱いを受けることになるのだろうか。  それも案外悪くないかも……。思いながら、わたしは石づくりの欄干に両腕を重ね、息をついた。隅田川の上流から吹いてくる冷たい風が、ほてった体に心地いい。 「なんかふっ切れた顔してる」わたしの顔を横から眺め、杉本くんは言う。「姉ちゃんになんか言われた?」 「べつに。この髪型かわいいから切るのもったいないって」 「ふうん……」その言葉の真意を探るように、少しのあいだ彼は沈黙した。「ま、それでいんじゃね?」 「杉本くんってまさか……ほんとにロリコン?」  ツインテール萌え? わたしが追及すると、「ちげーよ!」と彼はむきになって否定する。「ただ仮装コンテストあるから……」  ショートだと感じ出ないじゃんというのが彼の主張だった。なるほどとわたしは一応納得したが、そこで今度は別の疑念が湧いて出る。「ねえちょっと聞きたいんだけど」 「なに」 「イヌ役のことなんだけど……アレ、どうやって選んだの?」 「くじ引きだけど。それがどうかした?」 「……」 「藤田じゃ不満?」 「そういうことじゃなくて……」 「もしかして須藤さん、おれらが藤田に押しつけたとか思ってる?」 「……だって藤田くんって、嫌って言えなさそうだし」 「それって須藤さんも同じだと思うけど」 「……。でもわたしは人間役だもん、まだいいよ」
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