ツインテールとシュシュ(2)

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「あいつのこと気遣ってんだ……。なんならさ、おれが代わりに引き受けてやってもいいよ」  言うなり、彼は地面によつん這いになった。「いいだろこれで。わん」 「だめだめだめだめだめそんなのっ!」わたしは慌てて彼の行為を止めにかかる。「とにかく押しつけたんじゃないならそれでいいの」  あ、そ。なにくわぬ顔して立ち上がり、そろそろ行くかと彼は言った。  駒形橋を西詰へ引き返し、わたしたちは浅草寺へと足を向けた。昼間は観光客でごった返すであろう雷門をひとしきり眺めたあと、人影まばらなシャッター通りとなっている仲見世の参道を駆け抜ける。境内にやってくると、正面の本堂を指して彼は言った。「お参りしてく?」 「いいよべつに」とわたしは首を振る。「お財布置いてきちゃったもん。またなくしたら困るし」  すると彼はジャージのポケットから財布を取り出し、ほいと五円玉を差し出してきた。  一瞬で腸の煮えくり返る思いに駆られ、彼を睨む。「コレ、どういう意味?」 「そりゃあいいご縁がありますようにって」そう言ったところで、あっ、と彼の口が一瞬固まった。「……なんでもない。なんでもありませんっ!」  そーゆーのってフツー神さまに祈るもんでしょ。思いつつ、わたしは本堂正面の階段を上り、まだ開いていない扉の向こうの仏さまに手を合わせた。正直なところ、神仏にお願いしたいことなら山ほどある。けれどその大半は自分でどうにかしなさいと却下されかねない代物だ。なので、自分ではどうにもできないこと1つに絞り、願いごとを唱えた。  戻ると、「なにお願いしたの?」とさっそく彼が聞いてきた。 「良縁祈願じゃないよ」とわたしは愛想なく答える。「もっと世の中のためになること」 「もしかして復興祈願?」 「……原発事故が早く収束しますようにって」 「ふうん。社会派なんだね」いかにも冷めた感じで彼は言う。「おれもなんか祈ろっかな」
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