ツインテールとシュシュ(2)

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 この人にも信心なんてあったんだ……。わたしは意外な思いで、祈ったら? と彼を促す。しかし彼の足は本堂を逸れ境内の外れのほうへと向かう。ついて行った先に鳥居があり、浅草神社と刻まれた巨大な石碑が建っている。隣接する浅草寺に比べるとこぢんまりとした佇まいだが、本殿を彩る朱や金といった色彩に華がある。参道を進み神前に立つと、お賽銭を投げ入れ、彼は手を合わせた。わたしも彼の横に立ち、神道の基本的な形式に則り参拝した。二礼二拍手一礼。そうやんだと彼もその動作を真似た。  拝殿のそばには、試験の合格や恋愛成就を願ったたくさんの絵馬が飾られている。それらを眺めながら、今度はわたしが聞いた。「なにお願いしたの?」 「とりあえず文化祭のこと。世の中暗いしせいぜい盛り上がりますようにって」 「へえ」なるほど、たしかに『祭り』のことなら神さまに祈るほうが理に適っている。「でも男子ってそういうイベントごと嫌いなんじゃないの? 無関心ってゆうか」 「べつに嫌いなわけじゃないよ。ただ女子に比べて起動が遅いだけ。時期が来れば男子だってそれなりに乗ってくるって」そう言って彼は笑う。「ちなみにも1つ祈っといた」 「なに。わたしの良縁?」 「違うよ奥沢の。アイツにまともなカレシができますようにって」 「エリナの? なんで」 「恋すれば少しは丸くなるかもしんないだろ、あの性格」 「たしかに」とわたしは笑った。「でも杉本くんじゃだめなの?」 「は?」 「だから、エリナのカレシ。わたしは案外」  お似合いかと。そう言おうとしたところ、「バカ」と彼に真顔で小突かれてしまった。
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