ツインテールとシュシュ(2)

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 やっぱ十代の肌っていいよね~。わたしの顔を至近で見つめながら、彼女はメイク下地を指に取り、頬や小鼻に当ててくる。ファンデーションを顔全体に塗るのではない。コンセプトはあくまで『超ナチュラル』。校則など学内事情に配慮しつつ、素肌の若さを活かす。くすみなど気になる部分はコンシーラーでカバーし、フェイスパウダーを載せたパフを額から鼻筋にかけて当てる。これでベースは完成。チークを入れるためのブラシは筆先のように柔らかく、くすぐったい。それでもわたしは微動だにせず、命を預けるような心持ちで瑞希さんに顔を預けた。仕上げに、ピンクのリップグロスを薄塗りする。こうして鏡に映ったわたしは、目のまわりを一切いじらなかったこともあり拍子抜けするほどに普段と変わりない。もっともそれはわたしが望んだことであって、がっかりするよりほっとする気持ちのほうが強かった。とはいえ、メイクを施した顔でこれから学校へ行く。その事実ひとつで気分がやたら昂ぶる。おっ。キレイじゃん。と、その後杉本くんの見せた反応が素直に嬉しかった。女の子ですもの。  お世話になりました。出かける際、わたしが瑞希さんにお礼を言うと、彼女はそっとこう耳打ちしてくる。ゆうべの話、2人だけの秘密ね……。彼女の過去の失恋話が本来は聞いてはいけないことだと思い出したわたしは、興味津々なまなざしを向けてくる杉本くんを意識しつつ、お墓の中までと神妙に返す。すると、よし、またおいでと彼女は微笑んだ。こっちはいつでもオーケーだから。髪を切る決心が固まったらという意味だろう、はいとわたしはうなずいた。  雨は降り続いていた。上野駅までなら相傘でもいいような気はしたが、わたしは杉本くんが貸してくれた折りたたみ傘を広げた。互いの傘が干渉しないよう、わたしたちは一緒に歩いていても近づきすぎることはない。それでも道すがらの会話が途切れることはなく、ついにケータイ番号とメアドを交換するに至る。『あの人』以外の男子とははじめてのことだが、わたしはこの流れをとくに抵抗なく受け入れていた。自然な流れとして。
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