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◆◆◆
「まさかこんな形で最期を迎えるなんてね」
今から行けば間に合うかもしれない。
『ヒカル、俺の最期の舞台を見に来てくれ』
速達で届いた手紙には兄の熱い思いと共に、劇場の案内図が書かれていた。
「最期の最期まで無料のお笑いライブだなんて……」
嗚咽が込み上げ、涙が頬を伝った。
「……お兄ちゃん……らしいよ……」
主を失った立派な家。きっと親子三人で逃げるつもりだったのだろう。
きちんとまとめられた荷物に、会った事もない彼の奥さんを偲んだ。その中から小さなバッグだけを持つ。
「よしよし」
腕の中で眠る子供には、確かに彼の面影がある。
「子連れで行ったら、お兄ちゃん。びっくりしちゃうかな」
だけど何も言わずに受け入れてくれる。きっと、みんなを笑顔にする力で私とこの子を包んでくれる。
ぎゅっと抱きしめると温かい。独り、じゃない。
「そうね、こんなラストも……」
悪くないじゃない?
【Not alone・完】
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