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「君の言ってることはぜんぜんフェアじゃない」
「テレビをつけてください」
加藤は女に聞こえるようにわざと大きな溜め息をついて、テーブルに向かいテレビをつけると、それを女に伝えた。
テレビは人類がどのような経緯を辿り滅亡するか詳細にシミュレーションしていた。
まず地球内部で起こる爆発は複数回あること。そのエネルギーは天文学的数値になること。そしてその最初の小さなエネルギーが凄まじい高温のサージとなって地球内部から地表めがけて走りその道半ばほどで、人間の皮膚はぶくぶくと水ぶくれを起こす。全身の火傷にショック状態を起こし、次の瞬間、サージは一気に地表から噴き出し、人類を焼き尽くす。二度目の爆発エネルギーで地球はすっかり消滅するのだという。
この手の番組を加藤はできるだけ見ないようにしていた。最近はこんな代物ばかりを見せつけられるので、なるたけテレビをつけないようにしていたし、綾にもそうさせていた。しかし、何を目的にこんな壮大な嘘を並べ立てるのだろう。誰か得する人間がいるはずだった。それとも人類を相手にした世界規模のドッキリなのだろうか。
「洋介さん。まだテレビを消しては駄目ですよ」
「――ああ、まだ消してはいない」
番組は世界で起こっていることをリアルタイムで伝えはじめる。ニューヨーク。高層ビルから次々に飛び降り続ける人々。その映像はいつか見たドキュメンタリーで、興奮したネズミの大群が海に飛び込む場面によく似ていた。映像は変わっても、人類が自殺に向かうさまざまな場面はどれも似たようなもので、とても正視できるものではなかった。
加藤はテレビから無意識に目を逸らしていた。目頭に熱いものが込み上げるが、それが何に由来する涙なのかまるで分からなかった。
「君はいったい僕のなんなんだ?何か僕に恨みでもあるのか?」
「カーテンを開けて、ベランダへ出てください」
「いい加減にしてくれよ」
「カーテンを開ければ、私が誰だか分かるはずです」
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