二月の君は

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 路面を滑るように飛んでいった枯葉が、道端の吹き溜まりに収まるのが見えた。  バイクに乗って冬の風に吹かれていると、比較的温暖な地域でも指先の感覚がほんの少し鈍る。  しかし三日前までいた僕の故郷のほうが寒かった。こことの気温差は多分20℃以上の開きがあるだろう。  慣れるというのも、いいことばかりじゃない。  道に連なる、黒緑色の葉をつけた街路樹の合間に目的の場所がちらりと見えた。敷地の前で減速して駐車場に入る。  見慣れた建物、見慣れた景色。  まだ昼を過ぎた頃なのに、鈍色の厚い雲が空を覆っているせいで辺りは薄暗い。気分だって滅入りそうだ。  デッキの前にバイクを停めてヘルメットを脱いだ途端、木立を抜けてきた冷たい風が吹き付けてきて僕の髪を乱す。  海沿いはやっぱり冷えるなと髪をかき上げて乱れを直しながら、フックにメットを架けて建物横の階段に向かった。  寒々しい天気でも、僕だけは明るく努めよう。  彼女に逢う日くらい、晴れやかな気分でいたい。
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