第1話

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「ふぅ……」  やっと人間の姿になれた。  普段は、自分の意思で、人間になったり猫に戻ったり出来るのだが、強い衝撃みたいなのを受けると、何故か猫からなかなか人間になれない。  なれない時間の長さはまちまちで、はっきりしないのだ。  どうしてなのか、自分でもよく分からない。  大して困ることもないから、知ろうとも思わない。  時計を見た。  十一時を過ぎていた。  金本と麻須美って人間が来るのは午後。  もうそんなに時間がない。  せめて玄関だけでも……いや、応接室……  その前に、アイコさんの部屋も限界だ!  ……やめよう。  もう今日は、部屋で大人しく昼寝でもしよう。  オレは、ベッドに横になって、部屋を見渡した。  未だに変な気分だった。  オレに一室。  普通の部屋。  人間と同じ場所。  時々自分がよく分からなくなる。  猫なのか、人間なのか、……妖怪なのか。  最終的に落ち着く分類は、妖怪なんだけど。  でも、今は“アイコさんの家族”。  それでいい。  Tシャツの染みになってしまった箇所を見た。  着替えなきゃ……  立ち上がった。  クローゼットを開けて、数枚のTシャツの中から、一枚を選んだ。  この国の言葉じゃない文字が書いてあるやつ。  アイコさんが使っている言葉は解るんだけど、もっと言葉があるらしい。  ……よく分からないけど。  人間って、面倒臭いんだなぁ、なんて思う。  たくさん国ってやつがあって、いっぱい言葉があって、考え方も違って、偶に解り合わないっていう。  戦争ってやつがあって、大変らしい。  猫で言う、縄張り争いなのかな?  まあ、なんでもいいけど。 「染み抜きする時間くらいはあるかな?」  耳を澄ます。  アイコさんの家に来るには、車でなければならない。  その騒音は、オレの耳には五月蠅過ぎる。  かなり遠くからでも聞こえくらいだ。  だから、誰かが来るっていうのが分かるのだけど。  窓辺によって、意識を集中させた。  車の音は聞こえない。 「やっちゃおう」  オレは、部屋から出て、洗濯機のあるバスルームに向かった。
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