3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふぅ……」
やっと人間の姿になれた。
普段は、自分の意思で、人間になったり猫に戻ったり出来るのだが、強い衝撃みたいなのを受けると、何故か猫からなかなか人間になれない。
なれない時間の長さはまちまちで、はっきりしないのだ。
どうしてなのか、自分でもよく分からない。
大して困ることもないから、知ろうとも思わない。
時計を見た。
十一時を過ぎていた。
金本と麻須美って人間が来るのは午後。
もうそんなに時間がない。
せめて玄関だけでも……いや、応接室……
その前に、アイコさんの部屋も限界だ!
……やめよう。
もう今日は、部屋で大人しく昼寝でもしよう。
オレは、ベッドに横になって、部屋を見渡した。
未だに変な気分だった。
オレに一室。
普通の部屋。
人間と同じ場所。
時々自分がよく分からなくなる。
猫なのか、人間なのか、……妖怪なのか。
最終的に落ち着く分類は、妖怪なんだけど。
でも、今は“アイコさんの家族”。
それでいい。
Tシャツの染みになってしまった箇所を見た。
着替えなきゃ……
立ち上がった。
クローゼットを開けて、数枚のTシャツの中から、一枚を選んだ。
この国の言葉じゃない文字が書いてあるやつ。
アイコさんが使っている言葉は解るんだけど、もっと言葉があるらしい。
……よく分からないけど。
人間って、面倒臭いんだなぁ、なんて思う。
たくさん国ってやつがあって、いっぱい言葉があって、考え方も違って、偶に解り合わないっていう。
戦争ってやつがあって、大変らしい。
猫で言う、縄張り争いなのかな?
まあ、なんでもいいけど。
「染み抜きする時間くらいはあるかな?」
耳を澄ます。
アイコさんの家に来るには、車でなければならない。
その騒音は、オレの耳には五月蠅過ぎる。
かなり遠くからでも聞こえくらいだ。
だから、誰かが来るっていうのが分かるのだけど。
窓辺によって、意識を集中させた。
車の音は聞こえない。
「やっちゃおう」
オレは、部屋から出て、洗濯機のあるバスルームに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!