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「親戚の子。優輝君って言うの」
人に会う用にバッチリメイクをし、白いワンピースを着たアイコさんは、笑顔でオレを紹介した。
朝、眠気眼を腫らしていた人物と同一だとは、到底思えない。
目の前には、編集部の金本正という男と、あの若い女――麻須美が、アイコさんと、物珍しそうにオレを交互に見てきた。
金本は、いかにも真剣質です、と言った風な皺一つないスーツを着こなし、掛けた眼鏡を何度も上下させていた。
麻須美は、どこか楽しそうに、でも、どこかで疑っているような目でオレ達を見ていた。
「今、丁度夏休みだから、色々と家のことを手伝ってもらっているの」
「そ、そうなんですか」
どもりながら、金本は立ち上がり、オレに何か紙切れを差し出してきた。
一瞬、目の前の男がちらりとアイコさんを見た気がした。
「こ、こんにちは、優輝君。僕は、金本と言います。愛子先生とは二年ほど一緒にお仕事をさせて頂いています」
普通に立てば、金本の身長はオレなんかよりも頭一個分くらい高いのだが、どうにも気弱な性格なのか、わざわざ目線を下げてくる。
だからと言って、目線は泳いでいて、合わない。
それが癪に障った。
アイコさんが、柔らかい口調で言う。
「金本くんはね、仕事だけじゃなくて、偶にプライベートでも私のサポートをしてくれるの」
「そ、そんなこと……」
アイコさんの言葉に、金本は僅かに頬を紅潮させ、益々オレから視線を逸らした。
だが、逸らした先に誰がいるのかが分かって、更に気に入らなかった。
「どうも、初めまして」
内心を隠したかったけど、オレの声音は普段よりキツイものとなる。
何がそうさせているのか、オレ自身が一番分からない。
ただ、気に入らない……オレの本能が、そう告げていた。
金本が怯えた仔犬のように、落ち着きを失くす。
「あ、す、すみま……」
「ねぇ、優輝君。その目、コンタクト?」
「え?」
「ひゃっ」
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