第1話

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「十六よ。確かそうだったわよね? 優輝君」 「へっ? あ、はい」  アイコさんの助け舟にオレは乗っかる。  これには麻須美もすんなり。 「そっかぁ。八歳下かぁ」 「可愛いからって食べないでね、麻須美ちゃん」 「ッ?!」 「ちょっ……先生ぇ!」  たっ、食べる?!  この女、猫を食うの?!  オレがビビって手を離そうとすると、麻須美は更に手を強く握ってきた。 「そんなことしませんよぉ。可愛いけど、未成年には手を出しません」  くすりと笑う顔が正直怖い。 「わたしは、仲野麻須美。よろしくね、優輝くん」 「よ、よろしく」  適当に挨拶を交わして、オレはするりと手を引っ込めた。  麻須美は何か言いたげだったが、アイコさんが先に口を開く。 「さっさと仕事の話をしましょ。あたし、この後も忙しいのよ」  冷めた口調に、オレは少し驚いた。  今までこんなアイコさんを見たことがなかった。  足を組み、金本と麻須美を睨むように見る。 「あ、はいっ。すみません。では、まず、秋に発売予定の単行本の件ですが……」  常に怯えたでかい仔犬もとい金本は、一瞬萎縮した後、大慌てで手帳を開いた。  麻須美もつまらなそうにソファに座り直し、鞄を開け、大きな紙切れをアイコさんに差し出してくる。 「それに書き下ろしも一編加えて頂きたいんです」 「え? 今から書けって言うの?」 「ファンの方は、きっとこのサプライズを喜びますよ」  麻須美はにっこりと微笑む。  アイコさんの目が鋭くなった。  金本がオロオロしている。  オレも、女二人の視線のぶつかり合いを眺めているしかなかった。  アイコさんが、小さく息を吐いた。  それが、その場の緊張を解消する。 「……分かった。書くわ」 「ありがとうございます」 「あ、ありがとうございます!」 「でも、今後勝手に決めないで」  麻須美と金本からの礼に、アイコさんは冷たく答えるだけだった。
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