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オレは、お茶を用意すると言い、あの場を離れた。
居辛かったからだ。
仕事の時のアイコさんを初めて見た。
いつもの彼女じゃない……
それが、無性に怖かったのかもしれない。
人間は、裏表の激しい生き物だ。
そのことを知っていたはずなのに。
アイコさんだけは違う、そうどこかで思っていた。
でも、やっぱり……
「優輝君」
「えっ……あ、麻須美さん」
声をかけられて、オレは初めて麻須美がキッチンの入り口に立っていることに気付いた。
気配に気付けなかった……この女、一体……
「手伝うわ」
笑った顔は、無邪気そうに見えた。
オレの警戒心が一気に高まる。
……食べられたくないもん。
だが、オレの内心なんて知る由もない彼女は、オレの横に並ぶ。
「あ、いいですよ。お客様にそんなことさせられないし」
別に手伝ってもらうことなどないのは事実だ。
それに、一緒にいるのが、怖い……だって、食べられちゃうかもしんないもん!
しかし、やっぱりオレの内心などお構いなしに、麻須美はテキパキとコーヒーカップを用意し、コーヒーの分量を量り始めた。
「愛子先生は濃い目、金本さんは薄目で、わたしは普通、と」
「アイコさんの好み、知ってるんだ」
「当たり前でしょ? 担当になって一年よ」
シュガーもミルクも、麻須美が全て揃えた。
オレは、何故か手を出せずにいた。
ぼうっとしているオレに、麻須美が苦笑する。
「優輝君も大変ね」
「え? 何が?」
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