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アイコさんの家族
☆1話☆
某所にある大豪邸の女主人の家族、とは名ばかりの世話役、オレ――泉田優輝は、朝から不機嫌この上なかった。
何故なら……
「ムニャムニャ…もう、食べらんないよぉ……へへっ」
ピキッ。
「気色悪い声出すなぁ!!!!」
恐らく、それは何百坪とある敷地全体に響いた。
周りにある森から、鳥達と蝉が一斉に逃げて行く鳴き声が聞こえた。
しかし……
「あぁん……駄目だってばぁ……マイケルぅ」
誰だよ?!
マイケルって!!
でも、もう声を出して突っ込む気にもなれない。
起こすことは諦めて、敷布団の端を持った。
「布団が干せないだろう…がっ!!!」
「ふがっ?!」
人間って、こんな見事にゴロゴロと回転し、床に突っ伏すんだ。
オレは妙に感心した。
――と。
「んん…連れないなぁ……ジャンカルロ…」
いやっ、だから誰なんだ?!
てか……この女、まだ寝てられんのかよ?
呆れ過ぎると言葉は出てこないものなのだと、ここに来て初めて知った。
掛け布団だけそのままに、オレはその場を立ち去った。
敷布団だけでも干すために、中庭に出る。
さっき逃げて行ったはずの蝉達が、周りの木々に戻り、再び大合唱をしている。
中庭と言っても、軽く家一軒建てられる……そんな場所。
青々とした芝生の上に、ぽつんと、物干し台があるだけ。
草木を植えると、世話が大変だと文句を言うのだ、あの女は。
あれば少しは見栄えも良くなるだろうに……
風が、芝生を撫でて、オレを通り越して行った。
心地良い。
素直にそう思った。
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