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目を覚ますと、アイコさんの泣き顔があった。
「ゆうちゃん、ねぇ……ゆうちゃん分かる? あたし、アイコだよ」
疲れ切ったスッピンに、腫れた瞼。
なんて顔だ……
正直、笑いそうになった。
でも、声が出なかった。
だから、鼻先をアイコさんの頬に寄せた。
「ゆうちゃん……よかったぁ」
アイコさんは、軽々俺の身体を持ち上げた。
どうやら、倒れた衝撃で俺は……
「あっ、そうだ!」
「ッ?!」
耳元で大声を出さないでくれ、頼むから。
俺が目を眇めたのが見えたのか、アイコさんは小さく「ごめん」と言った後、続けた。
「今日は午後から編集部の金本君と麻須美ちゃんが来るんだった」
それは、つまり。
やっぱり声は出なかった。
アイコさんは俺を抱いたまま、席に着き直した。
「ゆうちゃん、また隠れててくれない?」
はいはい、お安御用だ。
腕から抜け出そうともがくと、アイコさんが拒む。
「まだいいじゃない? 午後からなんだから」
俺の頭を撫でながら、アイコさんはのんびりと言った。
俺はそんな呑気にしていられない。
まだ洗濯と廊下に玄関、それとアイコさんの部屋の掃除……あ、客人の為に応接室も片付けなきゃなんないんです。
いつものくせで、やらなければならないことを頭の中で唱えた。
すると、アイコさんが苦笑する。
「今の姿じゃ家事は無理ね」
あ……
自分自身の身体を改めて見た俺は、小さく息を吐いたのだった。
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