序章

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. . . . . . . 「そんでな、挙げ句の果てに別れ話がLINEやねん!”私達もう終わりにしよ?”、つって一緒に付いて来たスタンプがめっちゃ笑顔で手ぇ振っとるクマって、明らか使い方おかしない!?な、そう思うやろっ!?」 都心のオフィス街から歩いて数分、忙しなく行き交う人で賑わう通りから一つ中に入った裏路地に店を構える小さな居酒屋から、その力強くも情けない声は聞こえてきた。 「そぉかぁ~、それはヒドイ話やなぁ、よしよし、……に、しても、こう毎度毎度、何でなんやろなぁ~…」 そう言ったきり、ビールジョッキを手にしたまま年季の入った木製テーブルの上に突っ伏すと、彼の同僚であり良き理解者でもある、向かい側の男ーー大丸橙也(だいまるとうや)はやれやれ、と、小さく溜め息を漏らした。半年と3日、今回はいつもより続いてるな、……と、つい昨日か一昨日、思ったばかり、だというのに。 「うぅぅ~……まるちゃ~ん、俺ってそんなあかんのかなぁ~……」 格好のつかない事なのは重々分かっている。仮にも25歳にもなる大の大人の男が失恋を理由にさめざめと泣く姿なんて、女々しい事この上ない。それでも、こうして毎回見放しもせず”失恋パーティ”を開いてくれる友人がいるというのは、彼の持って生まれた愛されキャラ、とでも言うべきなのか。 「うぅ~ん、せやなぁ~………いくちゃん、男前やし、身長やってモデルばりに高いし、おまけに料理上手やし、彼氏にするには最高のプロフィールのハズやなのになぁ……」 もごもごと焼き鳥を咀嚼しながら、その一連の流れで口から出るのは、ほとんど橙也だけしか呼ばない、彼の”愛称”だ。 「……何かな、付き合うコ付き合うコみんなに言われんねん、”育緑って顔カッコいいし優しいけど、でもいざって時に守ってくれなさそう、ぶっちゃけ頼りない~、って……」 育緑ーー高倉育緑(たかくらいくみ)は、故郷大阪のごく平凡な家庭に生まれ、”名は体を表す”、の言葉通り、深緑の樹木がごとく、すくすくと健やかに育ち、現在では180cmを超える長身の持ち主だった。器量も橙也が言うように、決して悪くはない。むしろ世間で言う”イケメン”、ーーーそう、容姿は実に申し分のない、それでいながら毎回フラれ役。彼はいわゆる”残念なイケメン”だった。 .
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