序章

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都心から約15分、会社からも近過ぎず遠過ぎずのこの在来線沿線に引っ越して来たのは今から1年半前の事だった。2LDK、いくら人より身体が大きいからとはいえ、”1人”で住むには十分、過ぎる広さ。いや、”2人”になる、予定だったのだ、正確には。その当時の恋人と、いわゆる”将来”を見据えて暮らすつもりで、学生時代からコツコツ貯めて来た貯蓄を切り崩してまで契約した新築のデザイナーズマンション。……しかし、悲しかな、今の育緑の姿がその”結末”の全てを物語っていた。 「、明日燃えるゴミ出さなな~、………あ、あのアルバイトの兄ちゃん、まーたスプーン入れるの忘れとる……」 駅から歩いて10分足らず。途中で立ち寄ったコンビニの袋の中を覗き込みながら無意識にこぼすのは、誰が聞いてくれるでもない独り言。アメショーかマンチカン、……それよりやっぱ、イヌのがえぇかなぁ、ネコやとドアとか壁とか爪跡でえらい事になりそうやもんなぁ~、………いよいよ本格的な”ペットと暮らそう!計画”、を脳内シミュレーションしながら帰り着いた、………………その時、マンション入口の階段に見つけた、得体の知れない”物体”。 「!!!!! …っし、し、し、死体………!!!」 恐怖に直面した時、人の反射神経というのは一瞬全く機能しなくなるのだと、そう書いてあったのは何のどの本だっただろうか。怖くない、ワケがない。なのに、まるで縫い付けられたように動けないまま、目の前の死体、………かもしれない、物体に視線を落とせ、ば。 「……、……死んで、へん」 ……ひとまず、最悪の展開だけは間逃れたらしく、なるほど、よくよく見てみれば、その物体、……人物は、微かにもちゃんと呼吸をしている。酔っ払ってそのまま寝てしまったのか、それとも……。正直、知り合い以外の人間に自分から関わっていくのは得意な方、ではない。…けれど、このまま放置しておくのもさすがに気が引けて。恐る恐る近付いて行く、と、………多分、平均よりも小さい、小柄な、男性。 何より、思わず目を奪われたのは、 「…、天使、みたいや………」 …一体どんな抜き方や染め方をするとこんな色になるのだろうか………男、の髪は、その1本1本が、まるで金の糸みたいに、黄金色に輝いていて。正に、外国の童話に出て来る天使のように、育緑には見えた。 .
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