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…ガチャ、
黒革のキーケースから取り出した鍵で開けた自宅のドアは、朝、出がけに開けた時よりも明らかに重厚感のある物に感じた。…訂正、実際に重いのは、ドア、…………ではなく。
「、……もっと軽いかと思た」
こない小柄なのになぁ、意外と筋肉質なんやなぁ……、それが独り言である事には変わらない、けど、今、この瞬間、育緑は”1人”、ではなかった。
「……、思わず連れて来てもうたけど、………どないしよ」
放っておけなかったのだ、要するに。
”気弱”、”頼りない”、と、かつての恋人達がこぞって形容する性格を敢えて長所と例えるなら、それはやっぱり”優しさ”で。目を覚ましそうにない天使、……もとい、金髪の男をあのまま寒空の下に放置しておける非情さは持ち合わせてはなく、非力な腕でどうにか抱き抱えて自室に運んで来たのはつい数分前の事。そっと、リビングのソファーに下ろしてやると、僅かに身じろいだ小さな身体。…………そして。
「………、ん…」
その2つの瞳が、まるでスローモーションのように、ゆっくりと開いて、いって。
「…、………誰?」
当然、といえば、当然の事なのだが。自分を覗き込む見ず知らずの男の姿に、警戒心の表れなのか、発した”第一声”は、想像していたよりも低く、刺々しいモノだった。
「…、あの、あなたがマンションの前に倒れてて、…えと、それで…………」
なのでウチに連れて来ました、……今日び、誘拐犯でさえも使わないであろう言い訳が、ボキャブラリーの乏しい育緑には精一杯で。………いや、”事実”には違いなく、言い訳、では決してないのだが。
「…とりあえず、これ、………外、寒かったから」
足りない言葉の代わりに、と、手に握らせたのは、いつも自分が使っている、エメラルドグリーンのマグカップ。
「……、ホットミルク、身体あったまるかと思て……」
…あぁ、子供や動物じゃあるまいし、やっぱコーヒーの方がよかったかな………、自分の家で、仮にも初対面の人間に、何故こんなに気を遣う必要があるのか。ただ、どうにも、これが性分なのだから仕方がない。
「……、美味しい」
そんな育緑の心配をよそに、そっとカップに口を付けると男の表情は一変し、それは嬉しそうに、邪気のない微笑みを浮かべた。
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