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「、何であんな場所に倒れ、て、たん、………ですか?」
二口、三口、ふぅふぅと冷ましながらホットミルクを飲む姿を伺い見ながら、時に、使い慣れた関西弁、……ではなく、当たり障りのない物言いで訪ねると、
「…、よぉ覚えてへん…………」
………まさか、男が口にしたのは、正に今、自分が飲み込んだばかりの、それだった。
「…、自分も、関西人、なん………?」
そうと知ってしまえば自然と口から零れ出す馴染みの言葉。……え、ほなそっちも……?予期せぬ展開に驚きを隠せないのはお互い様で。でも、だからこそ、気付けば取り払われていた、警戒の防壁。
「……こんな事って、ほんまにあるもんなんやなぁ………やって、ここ東京やのに、」
「…やな、……、それよかさっきの、覚えてへん、て………」
橙也以外の関西人と話すのは久々で、同郷の感激を噛み締めたいのはやまやまだった、……けど、だからと言って気にならなかったワケはなく。改めて、と、本来の言葉で聞けば、
「………、あんな、俺、ひーろーを、探しててんけど………」
「………………は?」
聞き間違い、ではないかと思った。しかし、聞き返してみても、ひーろー、目の前の男は確かにそう言う。……ひーろーって、あの?HERO、の、ヒーロー………?理解に苦しむ育緑を置いてきぼりにしたまま、理解不能な彼の理解不能な言葉は続く。
「…俺な、ひーろーに拾て貰てん、……で、一緒に暮しててんけど、ある日、突然居らんようになってもうて………
ひーろーに、
今度は捨てられてもうてん………」
「……………」
……一体何と応えればよいのか、自分は何と応えてやるのが得策なのだろうか……………その疑問に答えを見つける事はすぐには出来そうにもなかった、……………けど。
「……、ほんなら、ここ、
俺ん家、住む…………?」
本当は、イヌやネコが飼いたかったワケじゃない。
本当は、この広過ぎる部屋に1人きりでいるのが、たまらなく淋しかっただけ。
”ブルー”
そう名乗った、不思議で不可解な”天使”との同居生活は、こうして、思いもよらない形で始まった。
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