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「いい?これを私たちの代わりだと思って肌身離さず持っておくのよ?」
幼少期の男の手に母親らしき女がなにかを握らせる。
「いいかいーー?なにか辛いことがあったらこのお守りを見て父さんたちを思い出すんだ。父さんたちはいつでもーーを見守ってるからな。」
男の名前を言うときだけノイズが走るように男の耳には聞こえない。
「大丈夫。ーーはいい子だから、すぐに色んな人と仲良くなれるわよ。」
男を抱き締める母親は震え、そして泣いていた。
男の頭に手を優しく乗せる父親さえ泣いていた。
「ーー、一度しか言わないからよく聞いておくんだ。」
「ーー、私たちはあなたを世界中で誰よりも」
「「愛しているよ。」」
そう言って数秒後、胸に大きな穴を空けた男の両親は崩れるようにして倒れる。
男の周りが急に静かになる。
男は顔にそっと指を這わす。最後に母親が手を添えた顔。そこには母親の血が付いていた。
顔だけではない。優しく手を乗せた男の頭にも父親の血が付いていた。男の手にも、足にも、服にさえ。
男は母親の血が付いた手とは逆の手に握られていたお守りを見る。そのお守りにさえ血が付いていた。
足元を見る。両親がまるで向かい合うようにして倒れている。
「…………?」
男はなにが起こったのか分かっていなかった。
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