プロローグ

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歪み―――、そう、歪みだ。その時には僕は気が付かなかった、いま思い返してみると、これは歪魔法の暴発だったのだろう。禄に実力もないくせに、無理に使うとこうなるということだ 世界は歪む くらむ そして―――、暗転する 気が付いた時、僕は見覚えのない街並みに立っていた。住宅街のような、その街並み。瓦葺の屋根が立ち並ぶその空間。空は吹き抜けに青く、雲一つない 住宅街のような場所だというのに、不気味なことに人の気配が全くない。ほぼゼロである―――、ただ、目の前のその男を除いては 凶悪そうに歪められた、にやつく口元。細く、しかしそれでいて鋭く細められた、その瞳。年齢は、僕より少し上くらいだろうか、その男は開口一番こう喋りだす 「―――ああ、なんてことだ、『不敬者』のローブに落書きし、『魔人』の女にちょっかいをかけ、『召喚王』の日誌でキャンプファイヤーして、『殺戮女帝』にセクハラし、『鬼人』の弁当を横取りしたら―――、なぜだ、わけがわからない、こんなところにまで飛ばされてしまった・・・・・・! なんという、世界の境界をも超える力を、奴らは持っているというのか・・・・・・! くっ、俺には元の世界に戻って運命の伴侶を見つけるという使命があると言うのに―――! ・・・・・・、な、なんだお前は! いつからそこに居た・・・・・・! 存在感があまりにもなさすぎる―――、空気・・・・・・、圧倒的空気・・・・・・! なんということだ、生まれて初めてだ、こんなにも個性がない人間に出会ったのは・・・・・・! もはや個性がないことが個性といって過言じゃないレベルだぞ―――! ・・・・・・、まああれだ、君、ここがどこだかわかるか? 個性がないのと知識がないのは比例しないだろうが―――、わからなくても俺は怒らないから言ってみなさい、ほら、どうした? ん? ん? ほら言えって、言ってみろって」 ―――と そんな風に、独り、長々と長台詞をしゃべりながら僕に話しかけてくるその男―――、糸のように細いその目に、にやついた口元が特徴のその男 今思えば不審者極まりない人間だったのだが―――、なぜだろうか、そのとき僕は、逃げるという選択肢を思いつくことができなかった 今思えば不思議な話だ―――、僕は運命なんてこれっぽちも信じちゃいないが、こればっかりは運命的なものを信じざるを得ない そう これが僕と、彼―――『喜笑』とのファーストコンタクトだった
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