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明東高校、1年3組、古谷(ふるたに) まこと。
その名前を知らない者は、明東高校にはいない。
整った顔立ち、成績は常に上位5位以内、バスケ部とサッカー部をかけもちする、まさに完璧という言葉が合う男。
「いやいや、すごいけど。でも、そのくらいの子ならどこの高校にも1人くらい…」
飯島 芽衣子(いいじま めいこ)が怪訝そうに言った。
上の内容を、自分の妄想も含めて熱く語っていた藤(ふじ)はさらに続けた。
「あっそうそう!1番大事なこといい忘れてた!当たり前すぎて!」
彼、古谷まことは、モデル兼歌手なのだ。
CM出演、出したCDは必ずオリコン1位。雑誌の売れ行きが低迷する現代で、彼の出る雑誌の売り上げだけが桁違いに伸びる。
『好きな人、幸せにしたいです』。
「素敵!かっこいい!!幸せにされたい!」
とある雑誌の古谷のページを開きながら、藤が叫ぶ。
芽衣子は冷めた目でそれを見ていた。
「これ、煽り文でしょ? 本文見た?『好きな子と一緒にインドのピラミッドの前でスフィンクスごっこしながら、幸せな時間を過ごしたいです。幸せにしたいです。』ってこれ端折(はしょ)りすぎでしょ!? あと、ピラミッドってインドじゃなくてエジプト!! 本当に上位5位以内入ってんの!?」
ボケに追いつけず、ツッコミが辛くなる芽衣子。
「いいの、私、カレーもミイラもスフィンクスも好き!」
「嘘をつけ」
「そういえば明日は食堂の日替わり定食、カレーだよ! めいちゃんめいちゃん、カレー!」
「お前の高校のことなんか知るか!! てか、インド=カレーだと思うなよ、インド人に失礼だろーがっ!」
がたがたっ。
椅子を引く音がして、芽衣子が立ち上がった。
「はぁ…ほら行くよ。こんなとこで大声出したら迷惑でしょ」
2人がいたのは、大型ショッピングモールのフードコート。学校帰りに食べていたドーナツはとっくに食べ終え、藤が買った雑誌が皿の横に山積みになっている。
「じゃあ、めいちゃん家行っていい?」
「まだ語るの………」
頭を痛めながら、承諾してしまう芽衣子。
「でもあんた、その雑誌と同じくらいの量の課題出てるでしょ?」
「課題より大切なものって、あるよね!」
「そうかもね。でもこの状況で言われても理解できない」
芽衣子の言葉を無視し、藤は大切そうに雑誌を抱きしめた。
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