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蒸発してしまいそうなくらい、暑い夏だった。
喉を潤したくて飲み込んだ水分は、体を巡り大粒の汗となって吹き出した。
失われた水分を取り戻すようにもう一度水を流し込む。
べっとり体に張り付く白いタンクトップのシャツが気持ち悪くて、橋の上から思いっきり川に飛び込んだ。
「ぷはぁっ! おい、お前らもこいよ!」
「いいだろう、一俊! 超ハイパージャーンプ!!」
目の前で同い年と思えないほど大きな塊が、高い水しぶきを上げて水の中に沈んでいった。
「あはは、馬鹿だなー、二人とも。よっしゃあ! いこっか、みひろちゃん」
「えー!? 無理です無理です! 亜里沙ちゃん!」
「せーの……えい☆」
「きゃあああ!?」
2つ水しぶきがあがり、僕らは息が苦しくなるほど、大きく笑った。
川遊びが終わると、泣きじゃくるみひろを背負って僕らの拠点に戻った。
「だから、泣くなって。おにーちゃんが悪かったよ」
「ばかばか! もう、おにーちゃん嫌いです!」
「みひろちゃん機嫌なおそ? 私も悪かったしさー」
「……バカップルです」
「わー、なーに言ってんのこの子ったら。おませちゃんねー」
「高宮、お前そんな喋り方だったか? なんかお前はもっとこう」
「鳥居はクラス替えまでに空気読むこと憶えた方がいいよ?」
「ん? 空気って読めるのか? おい、一俊」
「あー、あとで教えてやるよ」
「おう! さんきゅーな!」
「元気いっぱいだな。お、ついたぞ」
けもの道の坂を上ると木造の二階建て一軒家が見えてくる。ここが僕らの大切な秘密基地。
カギのかかっていないドアを開けると、一人の女の子が椅子に座って待っていた。
「みんな、おかえり!」
少女は笑うと、僕らも笑顔で「ただいま!」と返した。
空が暗くなるまで僕達はそこで短い時間を毎日毎日過ごしていた。
なにも進展しない毎日。変わらない日々。終わらない毎日。永遠に続くと思っていた日々。
あれから10年。
僕らの夏は、過去になっていた。
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