第一話

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 ◆  蒸発してしまいそうなくらい、暑い夏だった。  喉を潤したくて飲み込んだ水分は、体を巡り大粒の汗となって吹き出した。  失われた水分を取り戻すようにもう一度水を流し込む。  べっとり体に張り付く白いタンクトップのシャツが気持ち悪くて、橋の上から思いっきり川に飛び込んだ。 「ぷはぁっ! おい、お前らもこいよ!」 「いいだろう、一俊! 超ハイパージャーンプ!!」  目の前で同い年と思えないほど大きな塊が、高い水しぶきを上げて水の中に沈んでいった。 「あはは、馬鹿だなー、二人とも。よっしゃあ! いこっか、みひろちゃん」 「えー!? 無理です無理です! 亜里沙ちゃん!」 「せーの……えい☆」 「きゃあああ!?」  2つ水しぶきがあがり、僕らは息が苦しくなるほど、大きく笑った。  川遊びが終わると、泣きじゃくるみひろを背負って僕らの拠点に戻った。 「だから、泣くなって。おにーちゃんが悪かったよ」 「ばかばか! もう、おにーちゃん嫌いです!」 「みひろちゃん機嫌なおそ? 私も悪かったしさー」 「……バカップルです」 「わー、なーに言ってんのこの子ったら。おませちゃんねー」 「高宮、お前そんな喋り方だったか? なんかお前はもっとこう」 「鳥居はクラス替えまでに空気読むこと憶えた方がいいよ?」 「ん? 空気って読めるのか? おい、一俊」 「あー、あとで教えてやるよ」 「おう! さんきゅーな!」 「元気いっぱいだな。お、ついたぞ」  けもの道の坂を上ると木造の二階建て一軒家が見えてくる。ここが僕らの大切な秘密基地。  カギのかかっていないドアを開けると、一人の女の子が椅子に座って待っていた。 「みんな、おかえり!」  少女は笑うと、僕らも笑顔で「ただいま!」と返した。  空が暗くなるまで僕達はそこで短い時間を毎日毎日過ごしていた。  なにも進展しない毎日。変わらない日々。終わらない毎日。永遠に続くと思っていた日々。  あれから10年。  僕らの夏は、過去になっていた。
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