第1話

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「質問に答えよう」 大きな黒い瞳に、冷やかな色をのせて淡々と説明してくれるべっぴんさん。 何か…怒ってらっしゃる? 「先ず、此処は私の家だ。私は夕餉のために釣りをしていたのだ」 …釣り。そういやぁ、ほっぺたの痛みって…。 「今日こそは川の主を釣ってみせようと意気込んで臨んだ矢先、糸に掛かった感触にどれほど心踊ったことか…」 あー、つまり釣れたのが俺だったからガッカリだった、と。 「釣り上げてみればただの人間。しかも傷だらけで死にかけ。更には血の匂いに怯えたのか、魚達は怯えて逃げてしまい釣果は坊主」 …釣り上げた?って言った?この人今釣り上げたって言ったよな? 「おかげで夕餉は無し…。ならばせめて唯一の成果だけでも無理して食べるしかないだろう?」 ……。 ………。 …………え? 「もしかして、俺の事助けた訳じゃなく、獲物として持ち帰っただけ?」 「それ以外に理由など無いだろう?」 柔らかく弧の字を描く唇とは対象的に、瞳は全く笑っていないべっぴんさん。片手にはいつの間にか出刃包丁が掲げられていた。 俺…食われる感じ?
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