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一筋の雫が頬を伝い、顎から俺の足元へと滴り落ちる。
やべぇ…。
俺としては幽霊やら妖怪の類は信じない派なんだが、頭のイカレた人間は残念ながら存在する事を知っている。
ましてや山奥にひっそりと住むべっぴんさん。孤独に頭がイカレて人間を襲う習慣でもついちまったんじゃあ?
いや、別の意味では存分に襲って頂きたい所存なんだが。
何て桃色の夢物語は置いといて、だ。
これは逃げるが正解だよな。うん。
「あ、夕餉の邪魔しちまったみたいだな!悪ぃ悪ぃ、直ぐ出て…」
カッ!
ビイィィィイイン…
立ち上がり、そそくさとお暇しようとした俺の目の前には震えながらも元気よく突き立つ出刃包丁。
ぎ、ぎ、ぎ…と硬直して動きにくい首をなんとか曲げてべっぴんさんを見ると、
「冗談だ。逃げるな」
それはそれはお綺麗な笑顔でのたまいやがりましたよ。
「じょ、じょ、冗談って、おま!」
出刃包丁投げつけといて冗談はねぇだろう!
「いいから座れ。取って食いはしない」
ハッと鼻で笑うように意地の悪い顔で言うべっぴんさん。
ちくしょう…今すぐ逃げ出したいが、無理矢理逃げ出して今度は何を投げつけられるかわからねぇし、追いかけられたらチビリそうだし…何より、
無茶苦茶好みだ。顔が。
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