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「刃物の傷に見えるが、切られたのか?」
薬をしまいながら何でもない事のように尋ねてくるべっぴんさん。
「あぁ刃物の傷だけど、切られたんじゃねぇよ。自分で切ったんだ」
だから何でもない様に答えてみたが、薬をしまう手が止まった。
そのまましばらく考えこんだかと思うと、真顔で
「阿呆なのか?」
だよなぁ?
まぁ普通は阿呆にしか見えねぇよな。でも初対面で面と向かって阿呆呼ばわりされるとは思わなかったぜ。
「間違いねぇよ。ただの阿呆だ。ただ…負けたくなかったんだよな」
ぽつり、と呟いた言葉にべっぴんさんは何も言わず、次の言葉を静かに待つ。
視線で先を促され、話そうかと思ったが思い直し、
「その前によ、あんたの名前聞いていいか?話しにくいんだよな。俺は原田左之助。好きに呼んでくれていい」
「…翡翠だ。好きに呼べ。私は左之助と呼ぼう」
「翡翠…か。不老長寿の石の名前だな。なら俺はおヒィちゃんと呼ぼう!」
満面の笑みで答えたが、駄目だった。俺の首の右側すれすれを何かが通り過ぎて、同時に痛みが走る。…うん切れてるな。
頼むから一々抗議の度に刃物投げつけないでくれよ。
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