第1話

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とはいえ、切腹ってのは色々と準備が必要なもの。 己の腹を切るための短刀、介錯用の大刀。懐紙や、畳、清めの水。介錯人は誰が務めるのかも決めたりしなきゃならねぇ。 たが、頭に血が上っちまったらもう仕方ねぇよな。 なーんにも用意無しでその場で自分の腹を掻っ捌いちまった。 勿論辺りは流血騒ぎで大変な事になるわ、痛みで目の前が真っ赤になるわ、大変だった。 だが後悔はしてねぇ。 頭に血が上っての行為とはいえ、ヤルと決めたのは俺自身。誰のせいでもねぇ。 それにあの糞爺の真っ青な面も拝めたしな。むしろ清々しいぐらいだ。 と、ここまでは良かった。 問題はそれからだ。 医者にかかってちょいと山場もあったが、無事に生き延びた俺を待ち受けていたのは、謝罪だった。 勿論謝罪を『受ける』なんて訳なく、謝罪を『申し出る』側として。 おかしくねぇか? 人を侮辱した奴に体どころか命まで張って誇りを守り抜いたってのに、『恥をかかせた』だあ?『迷惑千万』だあ?
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