8/14
前へ
/40ページ
次へ
それから数十分後、俺は風呂場から上がった。いつになく身体は冷たくなってしまったが、気にする事ではない。 自室へ戻ろうと暗闇の道を歩いていると、玄関の軋む音が響き渡った。誰か来たようだ。 俺が後ろを振り返ると同時に、パァッと眼の前が明るくなった。暗闇に馴れていた瞳には強すぎる刺激で、俺は極端に眼を細め顔をしかめた。 「……帰っていたか」 まだ視力が活動していない中、男性の声が耳に入る。俺はその声を聞いた瞬間、ここに居るのは父親だと察した。 「……お帰りなさい」 俺は小さめの声で父親を出迎えた。しかし、父親は玄関の扉を開いたまま入る気配を見せなかった。不思議に思った俺は首を傾げた。 「エヴィット、そのままドアは開けていてね」 不意に女性の声が転がり込んだ。俺は無言で玄関を見つめ、入ってくる人物に注目する。 「ティセラ、急がなくていい。ゆっくり入るんだ」 父親の声に従って入ってきたのは母親だ。しかも、幸せそうな笑みを浮かべ、腕には赤ん坊を抱えていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加