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俺はただ呆然と両親を眺め、何度も瞬きを繰り返した。 ……笑ってる いつも険しい表情しか見たことない俺にとって、この二人の笑顔は新鮮であった。その表情を作らせたのは、紛れもない新しい家族。 俺は居たたまれなくなり、急いで階段を上がった。夕飯を取っていないが、そんな事どうでもよかった。 バタンと扉を大きく鳴らし、何度も呼吸をする。背中を扉にもたれかけ、ズルズルと腰を下ろしていく。 ……っ 暗闇に居ても、自分が今どんな表情をしているのか想像がついた。冷たい雫が頬を濡らし、俺の手の甲に落ちる。身体を縮こまらせ、嗚咽を必死に殺す。 な、んで……なんで……っ?! 俺に向けられる事の無い愛情が、なんでお前には向けられているんだ。 感じた事の無い感情が胸いっぱいに広がっていく。苦しくて逃げたくなる。残酷で負の感情しか産まれてこない現実から、今すぐにでも逃げ出したい。 「っ、……う、ぁ……」 不規則に肩を揺らし、ボロボロと零れる涙が俺を苦しめる。 両手で眼を覆い、爪を立てる。爪が皮膚に食い込もうが皮を剥ごうが関係無い。この痛みを紛らわせる事が出来るなら、いくらでもやってやる。 「    」 声にならない言葉を紡ぎ出す。相当ショックを受けたんだろうか、俺はいつの間にか意識を失った。
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