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あぁ……最悪だ……
霞む瞳の中、どこからか小さな声が聞こえた。俺は一度瞬きをし、声に耳を傾けた。
その声は音を発しているが、言葉を発しているわけではなかった。簡単な音を何度も繰り返し、自分の存在を主張するかのように鳴き続けた。
……あの赤ん坊……?
俺は時間をかけて身体を起こし、壁を伝って歩き出した。一歩一歩が身体に響く。だが、それと共に音が近付く。
小部屋の扉を開くと、そこに居た。白いベビーベッドの中心で寝ている赤ん坊。
「…………」
見た感じだと、俺の身長よりやや低めのベビーベッド。覗き見る事が出来るか出来ないか、微妙な高さだ。
足音を立てぬよう恐る恐る近付き、柵に手をかける。
「ぁう」
顔を覗かせた瞬間、赤ん坊と眼が合った。緑色の丸い瞳、髪色が俺と同じで、可愛らしい顔付きをしていた。
正直、男なのか女なのか分からなかった。ただ分かるのは、コイツは両親に愛されていると言うこと。
「うー、きゃ」
赤ん坊は初めて俺を見て、観察するかのように俺を眺める。俺は手を伸ばし、赤ん坊に手を差し出してみた。どうせ、拒絶し泣くだろうと思いながら。
赤ん坊は伸ばされた手をジッと見つめ、大きな瞳を泳がせていた。
…………
躊躇っているのが、眼に見えて分かった。
予想通りだと哀しみを覚え、手を退こうとした瞬間、赤ん坊は小さな両手で俺の手を掴み、満面の笑みを浮かべた。
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