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「あなた、これぐらいの事も出来ないの!?」
女性の声が幼い少年に降り注ぐ。少年は俯いて、なにも言わない。
「いい?こんな事も出来ないなら、立派な兵士にはなれないわよ!!」
女性は少年に理想を押し付ける。それでも、少年はなにも言わなかった。女性は呆れたように溜め息を吐き、少年を後にした。
女性が見えなくなったのを確認した少年は、眼をギュッと瞑った。
「……なんで……」
少年は胸に広がる哀しみと痛みに耐え、涙が零れ落ちるのを我慢した。
自分はまだ6才になったばかりだ。そんな子どもに5kgはある竹刀を持たせ、素振りをさせようとしていた。幼い自分がそれを振り回せるとか考えられなかった。
いや、振り回せたとしても、その行為はすぐに意味を失うと分かっている。出来てしまえば、両親はハードルを上げ、強制させる。
幾度となく繰り返された事。少年は両親への不満を胸に押し込め、か弱く握り締めた竹刀を振った。
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