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それは今から二週間前のこと。
非常階段であの劇的な告白をされて、まだ浮ついた気持ちのままオフィスに戻ると、当然の如く私達は周囲の視線を一手に引き受けていた。
同僚の田辺さんが、
「おい、永井、一体どうしたんだよ?」
と私達の前に歩み寄り、他の皆も仕事をする振りをしながら、こちらに注目していることが痛いほどに伝わってきていた。
ここできっと彼は、
『俺達は付き合うことになった』
なんて交際宣言してくれるのだろうか?
とドキドキしていると、
彼は「ああ」と小さく頷き、
「相沢さん……俺が頼んだ仕事でミスをしていて、ここで注意するのもあれだから、外に出たんだ」
と低い声でそう告げた。
その言葉に田辺さんは「ああ、そうだったんだ」と納得した顔を見せ、他の皆も、
『なるほど、仕事でミスをされて、腹が立ったから勢いよく通路に連れて行ったわけだ。
このオフィスで皆の前で怒鳴るのは、さすがに可哀相だものね』
と一寸の疑いもなく『うんうん』と頷いていた。
私は彼の言葉に少し戸惑い、
どうして?
と見上げると、その気持ちを察したのか、
「面倒だろ?」
と一言そう漏らし、何事もなかったかのように自分のデスクについた。
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