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「俺、本当はわかってんだ」
「アキラさん?」
「自分がもう落ち目だって事」
「そんなっ! そんな事ないっす!」
懸命に否定してもアキラさんは優しく微笑むだけで、俺は自分のボキャブラリーの欠如に情けなくなる。
「そんな顔するなよ。それはそれで嬉しいんだぜ?」
「え?」
「先に立ち、道を作るのもいい。でも後に続く若いのに譲るのも悪くないって事」
「アキラさん……」
その先見の明も懐の深さも俺にはないもの。だから俺は、アキラさんに憧れて止まない。
「それから今日カミングアウトするつもりなんだけど」
「何をですか?」
するとアキラさんは、いたずら小僧みたいに目をキラキラと輝かせる。
「ラッキースターの名付け親って、実は俺じゃないんだよね」
それは十年前と同じ、俺が芸人になると心に決めた日。テレビの中にいたアキラさんのドヤ顔だった。
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