Mother

2/7
前へ
/10ページ
次へ
 からからと見慣れた引戸をスライドさせると、これまた耳慣れた声が俺の鼓膜を震わせた。 「いらっしゃ……、あら。おかえり、お疲れ様」 「ほんっと疲れたっ! 聞いてよっ! クリスマスケーキ追加で、さらに100個作ったんだぜ!」 「あらあら、店長さんらしいわね」  モッズコートを壁際にあるフックに掛けながら店内を見渡すも客はいない。壁時計を見れば、彼らも最期の場所へと、それぞれ向かったのだろう。 「でも無料配布なんていいじゃない」  L字型のカウンターの端は、小さい頃からの俺の指定席だった。ここに座りながら宿題をしたり、晩飯を食べたりした。 「何か食べる?」  小料理屋あかり。和風ダイニングバーと言わないと拗ねる母さんが、この店を切り盛りしながら女手一つで俺を育ててくれた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加