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からからと見慣れた引戸をスライドさせると、これまた耳慣れた声が俺の鼓膜を震わせた。
「いらっしゃ……、あら。おかえり、お疲れ様」
「ほんっと疲れたっ! 聞いてよっ! クリスマスケーキ追加で、さらに100個作ったんだぜ!」
「あらあら、店長さんらしいわね」
モッズコートを壁際にあるフックに掛けながら店内を見渡すも客はいない。壁時計を見れば、彼らも最期の場所へと、それぞれ向かったのだろう。
「でも無料配布なんていいじゃない」
L字型のカウンターの端は、小さい頃からの俺の指定席だった。ここに座りながら宿題をしたり、晩飯を食べたりした。
「何か食べる?」
小料理屋あかり。和風ダイニングバーと言わないと拗ねる母さんが、この店を切り盛りしながら女手一つで俺を育ててくれた。
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