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中原家にあり、陰陽師達から隠れていた鈴の式神。言い逃れは出来まい。こいつは、影夜に仕えていた式神だ。恐らく今回の怪異にも大きく関わっていた筈だ。
腰から太刀を抜き放ち、朝霞は宙で九字を切る。
「急々如律令――、四神、神人、星神の名において、ここに印を結びませい」
長倉を初めとする部下達が、手印を結び、守護神の名を口遊んでいく。
「朱雀」
「玄武」
「白虎」
「勾陣」
「帝久」
「文王」
「三台」
「玉女」
「青龍」
早乙女の隊が取り囲んで組んだ円陣が、淡い金色の色に輝く。その中心にいた少女は小さく呻き、ひれ伏した。先程とは違う。凄まじい重力に牽きつけられるように倒れる。鈴が揺れたが音は出ない。
「さて、どうしようか。チビ」と、朝霞は相手を無力化した事でいい気になったのか、にやっと笑った。完全にいじめっ子のそれだ。素早く九字を切り、結界を維持しつつ、長倉が釘を刺す。
「どうするも何も、このまま陰陽寮に連行するんじゃねぇのかい?」
ムッと、朝霞はみるみるうちに機嫌を損ねて、口をへの字に曲げた。
「こいつ、危険じゃん? 今ここで私の手で滅したほうがー、いいんじゃないかなーってさぁ?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。
「調子に乗るな、阿呆」
術に集中していなければ、長倉はその頭に拳骨を落としていたかもしれない。落とせばその三倍の霊術が飛んでくるだろうが、それでも止めないといけない事もある。
「分ぁかったよ。んじゃまぁ、手っ取り早く原身に戻って貰うとしよっか」
朝霞は太刀を振りかざした。口でどうこう言おうが、彼女は残酷ではない。仲間想いであるし、敵として向かってきたものでも、相手が人であれば手加減する位の優しさは持ち合わせていた。
ただ、彼女は不安定だ。反抗期で、素直に人に接する事が出来ないお年頃なのである。長倉達はそれを知っている。知っているからこそ、黙って彼女の下で働いてきた。長倉等は、力で決して及ばないにも限らず、彼女に対して素直な感情をぶつけてきた。
しかし、目の前のこの式神の少女はそんな事知る由も無い。ただただ、目の前の状況に怯え、今にもパニックを引き起こしかねない程に全身を引き攣らせていた。
そして――、
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