霧乃

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「巨石よ、目覚めよ。叩き潰せよ、引き裂けよ、粉砕せよ。巨石の鎧の式をここに打つ――おんうきゃにはらしゃみそはか」  誘の詠唱に合わせ、地面を突き破って出てきた巨人が二体。その姿は一言で言うなら岩石で出来た鎧武者のように見えた。崩落している天井すれすれに頭をつけ、いかにも窮屈そうに辺りを見回している。  二体とも武器は無い。その内の一体が主に仇なす者を見つけるや否や、嬉々として岩石で出来た両の拳を付き合せた。そのまま霧乃へと振り下ろそうとする。 「木火土金水の気を調和させし不動の式を打つ――ばんうんたらくきりくあくうんかんまんぼろん!! 出でよ、五人五郎の式王子!!」  千星空の詠唱に合わせ、出現したのは五体の式。どれも体は肉と骨と皮からではなく、霊力によって構成されている。 「雷霆、火界、砂塵、白刃、蒼水――」  二メートルを超える長身であり、それぞれ雷、火、砂、鉄、水から成る身体を持っている。 ――式王子。それは、いざなぎ流固有の呼称である式神の事だ。思想そのものは仏教における護法童子に近い。  雷霆は雷で出来た自身の右腕を引き千切り、左手で投槍よろしく岩石で出来た鎧武者の顔面に叩きつけた。呻きながら下がる式王子の腕を火界が焼き、砂塵は足へと纏わりつく。白刃は鎌のような両腕でもう一方の式王子の足へと斬りつけていた。蒼水が胴へと水の砲弾を叩きつける。 「お兄様、大丈夫ですか!?」 「いや……」 ――一人でも切り抜けられたんだけど、ね  だが、気を抜けたのも一瞬、二体の式王子が腕を振り回して五体の式王子を吹き飛ばした。壁や床に叩きつけられて実体化が解けかかっている式王子を見て、千星空はぎりっと歯ぎしりした。 「儂の使役するは、高田王子と言ってな。数多の戦いを潜り抜けてきた。はて、お前さん達で相手になるかのぉ?」
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