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誘は皺の刻まれた顔を憤怒に歪めて笑っていた。霧乃がちらっと横を見る。蠱毒がこちらに向けて這いずってくる。高田王子を使って時間を稼いだその隙に、制御を取り戻したらしい。黒く蠢くその靄から巨大な髑髏が一つ現れる。闇を矯めたその眼窩の奥に燐光のような炎が灯る。その頭に続いて這い出てきたのは人間の身体ではなく、蜈蚣(むかで)の身体。何本もの足がそれぞれ自由に動き回り、前へと進む。
「あの娘……たまげた霊力よのぉ」
意味ありげに誘が、千星空の方を見た。オオカメ式を振り切った一体の高田王子が拳を振り下ろす。その腕に刻まれた呪詛が発動し、霊力によって倍化された鉄拳。巨大化し、両者の間に入った勾陣がそれを受け止める。びきりと勾陣の身体に亀裂が走る。
バラバラと鱗が落ちる――と見えたのも一瞬、鱗を“脱ぎ捨てて”脱皮を終えた勾陣が高田王子へと喰らい尽く。
「その手の脅しは俺には通用しないのであしからず」
霧乃は見る者をぞっとさせる暗い笑みで、答えた。
「俺には恐怖ってのが無いもんで」
「ハッ!! そのハッタリはもう聞かんぞ、小僧が!!」
蠱毒がその髑髏の剥き出しの牙が襲い来る。とん、と霧乃はさり気なく足踏み。ガチンと、蠱毒の上下の歯が宙を噛んだ。その頭上に霧乃がいる。
「術式開放! 四海の大伸、百鬼を退け、凶災をはらう。急々如律令!!」
落下する霧乃を呑み込もうと口を開いた蠱毒。その足元に五芒星が出現した。それを支えるのは五枚の霊符。目を焼くような煌々とした光に蠱毒は怯み、後退った。その隙に、霧乃は蠱毒の傍へと着地する。
誘はしかし驚きもせずに笑う。
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