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「主とあやつらの戦いは幣を通して見たよ」
長い身体を丸める蠱毒を指差し、誘が言う。あの中に術者も取り込まれ蠱毒の糧とされてしまている。もはや、自我の無い呻きが時折漏れる。人間としての尊厳すらも残されず、ただ目の前の敵を喰らう化け物と化している。そうさせたのは、目の前の誘だ。
――馬鹿馬鹿しい
物の怪に妹を奪われただか、なんだか知らないが、この蠱毒と物の怪にどんな違いがあるというのか。
「主は戦う前に必ず、仕掛けを施す。それこそ、手品師の芸の仕込みのようにの」
誘は、パンと柏手を打ち鳴らした。変化があったのは飲料の精製機だ。内側から破裂するようにタンクが破裂。連鎖するように次々に破裂して漏れ出たのは炭酸飲料ではなく、濃厚な瘴気だった。
「だが、今度ばかりはそうも行かぬ。ここは儂にとっての狩場。罠を仕掛けるは儂の方よ」
瘴気に当てられ、隠形の施されていた霊符が次々に腐り朽ちていく。一体、これだけの数の霊符をいつ仕掛けたのか、その数は数十枚に渡る。壁に、地面に貼られた物、空中に浮かぶ物も含めて全て破壊される。
「知ってるかい?」
九字を切って結界を張り、瘴気を防ぎつつ霧乃が訊ねた。
「本当の手品の種ってのは、相手の手が絶対届かない所に仕掛けられているもんなんだってこと」
「また、ハッタリかの?」
「それと、どれが本当の事か、嘘なのか分からなくさせるのも、相手を騙すのには有効なんだよ」
これ以上続けるのもくだらないと思ったのか、誘は問答無用で蠱毒を嗾けた。硬い鱗で覆われた蜈蚣の蠱毒。多くの術者の霊力を取り込んだだけあって、ちらっと見ただけでもその霊的装甲の固さが伺えた。勾陣無しでこれを正面から打ち破る手だてを霧乃は持たない。仕掛けた罠は全て破壊されてしまった。
――ま、全部フェイクだけど。
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