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血肉が吹き飛び、引き千切られるように蠱毒の身体が宙を舞う。雨のように降り注ぐ血を受け、誘は呆然としていた。
「儂は……守れも、壊せもせなんだか?」
式神の戦いも終わりを迎えようとしていた。高田王子の一体が勾陣に腕を噛み千切られて膝をつく。もう一体は五人五郎の王子と狼型の式王子の連携攻撃の前に倒れる。
「守れないんなら、壊せばいいなんて短絡的じゃんか」
実にくだらなかった。守れなかった事に対する怒りを、転嫁して暴れる。妹を守るという決意はその程度だったのかと呆れる。妹を守ろうとしたその崇高な心すらも穢し、妹の魂をも傷つける行為だ。
「ここまでだよ、あんたは」
慟哭とも嘲笑とも取れない声が漏れた。誘は再び壊れた。もう二度と霊術は使えないだろう。霧乃は結界を解き、誘へと近づく。
誘の老いた身体は震えていた。砂を掬い上げるように両手を上げている。
「諦められるものか……」
呪詛に満ちた両手を見つめていた。
「……え?」
霧乃の口から思わず間抜けな声が漏れた。戦闘時に身に纏う束帯。霊的な防御を施されたその束帯の腹に突き立つ――黒い刃。蠱毒の装甲の破片だった。
「フハハハハ!! 死ね、死んでしまえ!!」
「お兄様ぁああああああああああああっ!!」
束帯を突き破り、黒い染みが広がっていく。千星空の悲鳴と誘の嘲笑を浴びつつ、霧乃は驚愕の表情のまま、束帯の襟元を掴んだ。恐怖が無い――その言葉に偽りが無い事は表情を見ればわかっただろう。が、誘にとっては、もはやそんな事はどうでもいいのだろう。
「殺した! ハハハ、殺したぞ!! どうだ、小僧!! 貴様なんぞにやられる程、この儂は……――」
ビリっと、霧乃は気が狂ったかのように束帯を破り捨てた。
「あぁ――……死んだ」
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